高田崇史著「采女の怨霊・小余綾俊輔の最終講義」紹介と感想

書評・その他

標題の本「采女の怨霊」を読みました。


作者は高田崇史氏。

「QED」シリーズや「神の時空」シリーズ、「カンナ」シリーズなどで有名な人気作家さんです。

当ブログでも何冊か紹介したことがあります。
歴史の謎を独自の視点から解く作風で人気のある作家さんです。

この作品は「小余綾(こゆるぎ)俊輔の最終講義」シリーズの2作目に当たります。

1作目は「源平の怨霊」という作品でした。

小余綾俊輔という人物は大学の助教授(准教授)を務めています。

タイトルに名前がありながらも、彼の立場はあくまで助言者です。

主人公たちが各地を回って集めた情報や考えに対し、ヒントを出すことで解答に導く役割を果たしています。

采女の怨霊、あらすじと紹介

フリー編集者の加藤橙子は、担当している作家が壬申の乱をテーマに作品を書くというので、資料を集めて京都を訪問します。

帰路、奈良市の猿沢池周辺で行われる「采女祭」の存在を知った橙子は、興味を持って見に行きます。

采女とは、古代、各地の豪族たちから宮廷に送られた美しい女性のことで、天皇に奉仕する役割をゆだねられた存在でした。

決して、身分の高い女性ではありませんでした。

「采女祭」はそんな采女のひとりが、一夜だけ天皇に愛されますが、その後会いに来てくれないのを嘆き、猿沢池に身を投げたのを鎮魂するために始められた祭りでした。

采女神社は猿沢池の近くにあるわけですが、猿沢池のほうを見るのが辛いと、1日で背を向けたという伝説がありました。

祭りを見学した橙子でしたが、どこかに違和感が残りました。

大学で助手を務める知り合いの誠也と再会した橙子は、ふたりで、奈良、京都、滋賀とフィールドワークにでかけ、そのぼんやりとした違和感が何か探すのでした。

やがて、春日大社と藤原氏、さらには天智天皇、天武天皇の謎、壬申の乱へと話はつながっていくのでした。

この作品で解かれる主な謎

・采女祭りの采女とは誰のことか?

・身分の低いはずの采女がひとり自殺しただけで、なぜ天皇までが祭りに関わるのか?

・春日大社は藤原氏を祀る以外にも役割があった?

・天智天皇と天武天皇は兄弟ではない?

・大友皇子は本当に即位していたのか?

・壬申の乱はどうして大海人皇子の圧勝に終わったのか?

・大友皇子の母親は本当に采女だったのか?

・百済を応援した天智天皇の子である大友皇子の陵にどうして、新羅系のほこらがあるのか?

・大友皇子は暗殺された?

・若宮というのは怨霊を祀っている?

私的感想

このシリーズはQEDシリーズとは違い、殺人事件がストーリーに絡むという展開はありません。

純粋に主人公たちが歴史の謎を追って、現地調査をし、考察するというストーリーです。

しかしながら、ひとつの歴史の謎が新たなる謎を呼び、どんどん話が広がっていくのに、最後にストンと落ちるのが心地よい歴史ミステリであります。

今まで当たり前のように思っていたことの裏に、こんな謎があったのかと驚かされます。

いつもながら作者の着眼点に驚くとともに、その謎を見事な考察と裏付けとなる資料を示すことで、説得力のある解答が得られることに感服しました。

歴史書だけでなく、民俗学や能に関する資料など、多数の資料を読み込んだ上で話を作られているのだろうなと思います。

個人的にハッとしたのは、「一次資料といえば、同時代の資料を意味することが多いが、権力者が生きていた時代の資料が必ずしも信用できるのだろうか?」という主旨の一節でした。

考えてみれば、権力者が生きていた時代に「あの人物は主君を殺して権力者になった」と堂々と記録できるかと言われたらできませんよね。

できたとしても、資料共々消されてしまうのがオチでしょう。

だから、意外と権力者たちがいなくなり、しがらみなく研究できる時代の資料や口伝のほうが冷静かつ正確な可能性もあるなと。

明智光秀に関する研究だって、秀吉が生きていた時代や君主への忠義が問われた時代には、明智光秀=悪という構図でしか語ることができませんでした。

これは現代にも通じる教訓だなと思いました。

この手の小説は歴史に詳しくないと読みにくいと思われるかもしれませんが、中学校で習った日本史程度の知識があれば十分楽しめます。

歴史が題材になっているので、どうしても漢字や固有名詞が多いものの、読みやすい文体で書かれています。
歴史に興味がある人はもちろん、そうでない人にも読んでみていただきたい小説ですね。
おすすめします。

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