友人がアキバで買ったという「イース通史1」という同人誌を借りて、読みました。
日本ファルコムの人気ゲームシリーズ「イース」の一作目から三作目までの開発秘話が主に語られています。
作者は岩崎啓眞さんです。
この方です↓
丸1年以上見つからなかった仕様バグを金曜日にデバッガが見つけてひっくり返ったアカウントがこちらになりますw
報告受けて
「は?」
一瞬考える。
「ああっ! 1年運よく見つからなかったけど、仕様バグだ!」
と一瞬で気が付いたw
ビビるわw よくユーザー見つけなかったなとw— 岩崎啓眞@スマホゲーム屋+α (@snapwith) November 26, 2023
プロフィールについては本の中では詳しく書かれていませんでした。
Wikipediaによると、PCエンジン版イースの製作に関わり、プログラマーを本業にする傍ら、雑誌でゲームレビューなどのライター活動をされていたようです。
当時の関係者に入念なインタビューをされて刊行された本です。
同人誌ながら、かなり売れているようで、何度も増版されています。
「イース」というゲームについて
1987年にPC8801mk2SRシリーズで一作目が発売されたアクションRPGゲームです。
現在もシリーズは続いており、本編だけで9作、それ以外にも派生作品がいくつも発売されている人気シリーズです。
主人公は赤毛が特徴的な冒険者アドル=クリスティン。
この人物が過去に関わった冒険を100冊を超える本に残したとされていて、それを思い出しているという形になっています。
しかし、「イース」という名前自体は一作目と二作目に登場する舞台の地名で、一作目と二作目は話が続いているのですが、三作目以降は直接関係ありません。
1987年当時はまだパソコンのRPGというと異常に難解なものや、アクション性の低いものが多かったのですが、このイースは親切な設計が画期的で、人気となりました。
敵にぶつかるだけで攻撃したことになるとか(半キャラずらしという単語を聞いたことがある人もいるのでは?)、フィールドで停止していればHPが回復するとか、セーブがほぼどこでもできるとか、いわゆるクリア不可能になるハマり状態がなかったのです。
技術的にも、なめらかなスクロールというものが当時のパソコンのスペックでは難しかったのですが、様々な工夫を凝らすこと(内容は本を読んでください)で、実現させるなど、こちらも驚きを持って迎えられました。
演出も凝っていて、登場人物の美麗なグラフィックやオープニングのアニメーションは、当時のパソコンの性能の限界を超えているのではないかと言われるほど話題となりました。
二作目の登場人物リリアがかわいらしかったので、後にミスコンが開かれ、グランプリを獲った子はアイドルデビューしました。
その件に関しては→こちら
ちなみに、この本の表紙はリリアです(無断転載等禁止と書いてあったので画像は載せません)。
三作目は、横スクロール型アクションRPGゲームであったのですが、これまた当時のパソコンでここまでできるのかというレベルで、ゲーセンやファミコンのアクションゲームに匹敵すると言われました。
この本について、ネタバレしない程度に紹介します。
ネタバレにならない程度にいくつか本の内容を紹介します。
舞台は1986年頃の日本ファルコム社からはじまります。
当時のパソコンでできた技術の限界や、それを突破したクリエイターたちの凄さが記されています。
「森田将棋」で有名だった森田和郎氏がPC88で初めてスクロールを完成させた人なのだと知りました。
このとき作られた「アルフォス」というゲームが、後のファルコムの名作、「ザナドゥ」や「ドラゴンスレイヤー」に影響を与えたとのことです。
この頃のクリエイターとして有名だった木屋善夫氏や山根ともお氏、古代祐三氏など、当時のゲーム少年たちには懐かしい名前がたくさん出てきます。
そして、「テグザー」「レグラス」というゲームの登場で、パソコンでもなめらかなスクロールができることが証明され、それが「ロマンシア」を経て「イース」へとつながったとのことです。
ファ・ザナドゥについて
イースシリーズだけではなく、当時ハドソンからファミコンで発売された「ファ・ザナドゥ」というゲームについても触れられています。
「ファ」というのはファミコンの略です。
日本ファルコムが発売していた「ザナドゥ」のファミコン版をハドソンが移植したいと申し出たようです。
このくだりには高橋名人や「スターソルジャー」のプログラマー野沢氏や中本伸一氏と言った、ファミコン好きだった人にもおなじみの名前が登場します。
ただ、出来上がった作品はゲームとしては悪くなかったのですが、「ザナドゥ」とは全く別物という形のゲームになっていました。
ザナドゥの名前につられて買ってしまった人たちには評判が悪かったとか、ファルコム社内でもあまりいい印象を持たれなかったと書かれています。
しかしながら、そのあたりについて、当時のスケジュールを知る作者は同情的な記述もしています。
イース2について……何も決まっていないところからスタート
イース1と2は話がつながっていると先述しましたが、開発者たちによると、イースという国が天空にあるので、そこへ行く……という程度にしか決まっていなかったと書かれていました。
イース2は「優しさから感動へ」というキャッチコピーで販売されていたのを覚えているのですが、当初はそんなものだったのですね。
そのあとのドタバタぶりや、行き当たりばったりで新しい設定(魔法を使えるようにするとか、新ヒロインを登場させるとか)が生まれる話は、読者としてはたいへん面白いものでしたが、当事者たちは大変だったのだろうなと思いました。
あと、技術的なことが結構書かれていました。
私は技術的なことはよくわかりませんでしたが、かなりの苦心と工夫がされていることはわかりました。
イース3は「リンクの冒険」に影響を受けた?
イース3は横スクロール型アクションゲームだと先述しましたが、これは当時ファミコンのディスクシステムから発売されていた「リンクの冒険」のようなゲームを作りたいという発想から生まれたそうです。
当初はイースとは関係ないゲームにする予定だったそうですが、テストモードで赤毛の少年を主人公にしていたら、「イース3」でいいんじゃないというような話になったそうです。
正式なタイトルは「ワンダラーズ・フロム・イース」で、イースを超えた物語という意味になるので、それでいいのかもしれませんが……
と、まあ、このような裏話が続き、最後にイース1,2をPCエンジンに移植する話に触れられたところで終わっています。
2巻が発売されると予告されていました。
私的感想
歴史的ゲーム、イースの制作秘話なのですから面白いに決まっていると思っていましたし、こういうドタバタがあるのは間違いないと予想はしていたのですが、想像を超える面白さでした。
面白いのはもちろんですが、何より当時の人たちの新たな技術に向かっていく情熱や、素晴らしい物をみて、同じ物を作りたいというスピリッツに感動しました。
まるで、アメリカの自動車を見て、同じ物を作りたいと燃え、やがては世界一の品質の車を作り上げた日本の技術者たちを思わせます。
完売したので第二版が印刷されたとのことですが、納得です。
2巻もぜひ読んでみたいですね。
注:「イース1」などの表記について、数字部分は本来ローマ数字で書くのが正しいのですが、機種依存文字なので、ここではアラビア数字とさせていただきました。
この本は同人誌ですが、こちらのサイトで購入できるようです。
↓
ただし、すぐに売り切れるようで、品薄状態の模様です。
追記・イース通史2、3、さらにはPLUSも読みました。
イース通史2について
2はPCエンジンCDROMで発売された「イース1・2」の開発についての話が中心となっています。
また、その前提として、PCエンジンというハードがどういうものだったかという説明もされています。
CD-ROM自体の容量は多いものの、RAMがたったの64KBしかなかったので苦心したという話が興味深く読めました。
イースのヒロインはリリアなのかフィーナなのかという論争、さらにはパソコン版では、実はフラグを立てなくてもクリアできたイベントがあったなんて裏話も。
ミス・リリア、杉本理恵ちゃんに出会った話もほんの少しだけ触れてありました。
イース通史3について
3はまず「イース1・2」が海外で発売されることになった話が語られています。
翻訳に苦労した話や、英語テキストが技術的な問題でメモリがパンクしまくった話などが書かれていました。
後半はPCエンジン版「イース3」の開発話が中心でした。
イース通史PLUSについて
PLUSについては、まず最初にゲーム業界におけるグラフィック技術の歴史が語られ、途中からはイース制作に関わった人たちのことが語られています。
後半部分はイースに関する1983年から1991年までの製作の歴史が編年体形式で記されています。
どの本にもイースというゲームに関する貴重な証言が記されていて、ファンにはたまらない内容となっています。
なお、イース通史4の制作も予定されているようですので、もっと多くの証言がこれからも知ることができるかと思われます。
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