田中芳樹先生の人気作品「創竜伝」。
14巻がかなり久しぶりに発売されたので、「続巻は何年後か?」などと言われていましたが、一年後に15巻が発売され、しかも、最終巻でした。
あれだけ広がった物語をどうやって一巻でまとめるのかと思いましたが、さすがは巨匠・田中芳樹先生、見事に完結しました。
以下に個人的な感想を交えながら紹介します。
簡単なこれまでのあらすじ
14巻終了時点では、日本列島は富士山の爆発で東京の首都機能が麻痺。
政治は大混乱。
京都に征夷大将軍を名乗る小早川奈津子率いる幕府が誕生しています。
竜堂兄弟たちはとりあえず東京を目指していました。
主人公たちと敵対する牛種たちは相変わらず、彼らや人類を攻撃し続けていました。
それを仙界は様子を見ている状態です。
最終巻あらすじ(ネタバレなし)
敵対勢力である牛種たちの拠点が月の裏側にあると知った竜堂兄弟たちは月へ向かいます。
最終的に牛種のラスボスと出会います。
それは意外な存在でした。
あとがきによると4巻に少し伏線があったようです。
月の拠点は本拠地ではなく、前線基地にすぎませんでした。
月で戦いがあった後、彼らは仙界へ。
襲い掛かってきた牛種たちと戦います。
一方、京都では小早川奈津子が宇宙大将軍(6世紀に中国で実在した称号)と名乗り、相変わらずの怪力で警察たちを翻弄。
西日本を独立させ、大和国を作ると言い出します(部下のふりをしていた主人公の仲間たちに乗せられての発言です)。
西日本の首都をどこにするか大阪、奈良、福岡の知事らが論戦になるなど、政治を巻き込んで大騒ぎとなります。
仙界で戦っていた竜の兄弟たちですが、戦いの最中、次元のひずみに落ち、米軍厚木基地へ。
そこで米軍とも戦いになります。
米軍との戦いが終わると、今度は京都へ。
幕府の宇宙大将軍との戦いです。
しかし、宇宙大将軍は……
人間界での争いが終わると、再び仙界へ。
すべての仕置きが整理され、大団円となるのでした。
創竜伝15巻・個人的感想
面白かったです。
引き込まれて、一気に読んでしまいました。
これだけ広がった物語をどうまとめるのかと、作者には失礼ながら心配していたのですが、最後は綺麗にまとまっています。
正直、米軍のダンフォース少佐の存在など私は完全に忘れていたのですが、作者は彼らにも最後の舞台を用意していました。
そのぶん、話の進展が少しまわり道する感じだったのが、残念と言えば残念だったかも。
なお、「皆殺しの田中」の異名を持つ作者ですが、この作品では、思っていたより、絶命する人物は少なかったです。
異形の敵はたくさん倒しますが。
社会風刺や政治批判も少なめでしたかね。
田中芳樹先生は常々「完成しない小説は(小説ではなく)小言にすぎない」と語っておられます。
それだけに「タイタニア」といい、「アルスラーン戦記」といい、無事に完結させられたのはさすがだと思います。
ですが、それらの作品も、この「創竜伝」も、当初の計画ではもっと大きな物語になるはずだったのではないかと考えずにはいられません。
途中、16年の空白がありましたが、作者さんが忙しすぎたのですかね。
恒例のあとがき「竜堂兄弟の座談会」では「他の仕事で忙しかった」というようなセリフがあります。
それだけに、外伝的作品に期待したいところですが、「この作品には外伝も続編もない」と断言されていました。
残念ですが「銀河英雄伝説列伝」という例もありますので、そういう企画に期待しましょうか。

15巻はなんとなくですが、作品当初のような冴えを感じました。
なんだか作者が若返ったかのような感覚でした。
30年ほどかかり完結した作品ですが、作品中では8ヵ月ほどの期間になるそうです。
私も読み始めた頃は竜堂兄弟たちに近い年齢でしたが、いつの間にか彼らよりずいぶんと年上になってしまいました。
なんだか、読み始めた頃を思い出して、感慨深いものがありました。
若い頃に創竜伝を読み始めて興奮した方には、ぜひもう一度最初から最後まで読み直していただきたいですね。
私も時間ができたら、そうしたいです。
最後にひとこと。
田中芳樹先生、この物語を完結させていただき、ありがとうございました。
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