書評:創竜伝14巻 16年ぶりの最新刊に時の流れを感じる

書評・その他

田中芳樹作の人気小説「創竜伝」シリーズ。

竜の血を引く四兄弟が、牛の怪物(作品中は牛種と呼ばれている)が影から支配する権力者や巨悪と戦うのがメインストーリーです。

当時の社会風刺的をする記述がたくさんあり、権力者をバッサリと斬り捨てる作者の筆致も人気の秘密でした。

ちなみに、第1巻の刊行は1987年ですが、前の巻、13巻が出てからは、16年の歳月が経っています。

しかも、12、13巻あたりは完全に作者が的外れな悪ノリをしている感じで、古くからの読者を嘆かせていました。

登場人物の女性(小早川奈津子)がセーラームーンの決めゼリフを言うところなど、痛々しくて見ていられませんでした。

今回、14巻を手に入れ、読んでみました。

さて、16年ぶりの最新刊はどんな感想を私にもたらしてくれるでしょうか……

基本事項・あらすじなど

舞台は現代の日本で、主人公は四海竜王の血を引く四兄弟です。

竜堂始、続、終、余という冗談のような名前がつけられています。

かつて、作者のもとに「こんなふざけた名前の主人公なんてけしからん」というクレームがあったとか。

長男は23歳で教師、次男は19歳の大学生という設定です。

三男は高校生で、四男は中学生です。

少し反体制的な思想の持ち主ながらも、彼らは平穏に過ごしていました。

しかし、「牛種」と呼ばれる古代から続くライバル集団の血を引く者たちが現代社会を裏から支配していたこともあり、彼らに襲いかかって来ます。

正当防衛をしていた彼らでしたが、やがて都庁など巨大建築物を破壊したり、元首相を誘拐(?)したりと、過剰防衛になってしまいます。

そのうち富士山まで噴火して日本は大混乱となります。

ちなみに彼らはピンチになると、竜に変身します。

人か竜かどちらが本来の姿なのかは曖昧となっていますが、次男の続に言わせると自分たちは人間だということです。

竜になると、あちこちめちゃくちゃに破壊するのがお約束です。

14巻でもそれは健在でした。

「補天石奇説余話」という中国の古典小説がモチーフとなっています。

「四人姉妹(フォーシスターズ)」と呼ばれるアメリカの巨大企業が世界を支配しているというのは、今のGAFAを予言していたのかとも見えます。

日本を陰で支配していた人物の娘、小早川奈津子という怪女が、トリックスターとでもいうべきか、作品をかき乱します。

14巻はその女性が京都に幕府を開き、征夷大将軍を自称しているところから始まります。

私はさっぱり忘れていたのですが、この女性と主人公たちはいつの間にか手を結んでいたのですね……

私的感想

16年ぶりの最新刊、期待半分、怖さ半分で読み始めました。

率直な感想を言うと、12、3巻よりははるかにマシなものの、初期の勢いはない……というところでしょうか。

社会風刺的な部分も、昔ほどのキレはないように思いました。

なんだか、作者が弱気になったように感じたのは、私だけでしょうか?

巻末には、あとがき代わりに竜堂兄弟たちの座談会が行われているのですが、そこでも早く終わらせたい旨のことが書かれていました。

薬師寺涼子シリーズで毒を吐いているので、こちらではもう吐くほどの毒は残っていないのでしょうか?

読み始めたとき、舞台設定をどうするのかという疑問がありました。

作品が始まった80年代後半は、まだ携帯電話も普及していなかった時代です。

その後、続巻があって、90年代くらいに舞台は移っていたようですが、13巻が発売されてから16年……

14巻を発行するに当たって、現代とはいつになるのか……
13巻の続きだから、2000年代前半にするのか、それとも、現在の2019年頃にするのか……

結果は2019年の日本をモデルにしているようでした。

モデルというのは、この作品は一応、現実の日本社会をモデルにしたパラレルワールドになるようなので、それで良いようです。

科学技術が急に発展している社会なんでしょう(笑)

というのは、14巻ではスマホが登場していて、途中、竜や怪物が登場するのをインスタにアップしたい人たちが撮影しているシーンが再三登場するからです。

作者は危機が起こっているのに、動画撮影に夢中になる人たちを批判している感じでした。

14巻を読むに当たって、一応、記憶を蘇らせようとネット上でいろいろと過去のあらすじを確認していたのですが、ほとんど忘れていました。

しかし、読んでいくうちになんとなく登場人物たちを思い出すようになり、懐かしささえ感じました。

社会風刺的な面ですが、読んでいた当時、私もまだ若かったので、政治批判をする視点に共感を覚えるものがあったのですが、さすがに歳を重ねると賛同できないものがありました。

作者も同じ思いだったのではないでしょうか?

だから、少しトーンダウンしたのではないかと。

とはいえ、12巻や13巻を読んだとき痛々しさを思うと、だいぶ面白さを取り戻したような気がしました。

なんとなく、もう1回、1巻から読み直したくなりました。

今、1巻を読んだら、どんな感想を持つのかなと自分でも興味があります。

ただ、それは完結したときの楽しみにしたいですかね。

今、読み直しても、次の巻がまた16年後だと、もう一度1巻から読み直さないといけませんから(笑)

まさか、そんなことはないと思いますが、無事、完結してくれることを祈るばかりです。

2020.01.27追記・15巻も読みました。

最終巻となる15巻も読みました。

あらすじなどを以下の記事で紹介しています。

書評:「創竜伝」15巻 竜の兄弟たちの物語、ここに完結
田中芳樹先生の人気作品「創竜伝」。 以前、16年ぶりに発売された14巻について記事にしました。 「続巻は何年後か?」などと冗談を書きましたが、一年後に発売され、しかも、最終巻でした。 あれだけ広がった物語をどうやって一巻でまとめるのかと思い...

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