田中芳樹:著「残照」紹介と感想 モンゴルに仕えた名将郭侃が主人公です。

書評・その他

表題の本「残照」を読みました。

作者は田中芳樹氏。
「銀河英雄伝説」「アルスラーン戦記」「創竜伝」など説明不要な有名作をたくさん生み出している作家さんです。

一方、中国史に詳しい田中芳樹氏は、日本ではあまり有名ではないけども、中国ではとても有名という武将を取り扱った作品をいくつか発表されています。

例えば、岳飛や文天祥、張世傑、陸秀夫を扱った「海嘯」、陳慶之を扱った「奔流」などです。

陳慶之や文天祥を取り上げた小説は、日本では田中芳樹氏の作品しかないとさえ言われています。


「残照」の主人公、郭侃について

この記事で紹介する「残照」も郭侃(かくかん)というこれまた日本では名前を聞くことがまずない武将が主人公となっています。

どういう事績を残した武将かというと、漢人でありながらもモンゴルに仕え、「回回(フィフィ)砲」と呼ばれる大砲を巧みに扱い、イスラム勢力やアサシンらと戦った人物です。

大砲を使った戦術で連戦連勝、一度も敗れることはありませんでした。

落とした城は300を超えたと言われ、敵から「神人」とさえ呼ばれます。

生まれた年ははっきりしませんが、1210年代に生まれ、1277年が没年とされています。

当時、中国の北半分はモンゴルに支配されていました。

南には漢民族が統治する南宋がありました。

漢人でありながらモンゴルに仕えた人物は当時多かったそうです。

モンゴル人は国土を荒らしていくばかりで統治する思想を持たなかったため、代わりに彼らが秩序を守るため統治し、中国文化を守る役目を果たしていました。

そのため、決してモンゴルに仕えた裏切者というような扱いを受けてはいません。

郭侃が主に仕えたのはフラグ(フレグ、フレゲとも)というチンギス・ハンの孫に当たる人物です。

歴史好きな方は「フラグの大西征」という言葉を聞かれたことがあるかもしれません。

1253年に始まり、モンゴル帝国の首都カラコルムから遥か西のエジプト付近まで攻めました。

アッバース朝を滅ぼし、バグダードを征服。

その勢いは止まらず、最終的には地中海まで達しました。

中国史上、陸路で地中海に達し、そこに沈む夕陽を見た唯一の人物とされています。

タイトルの「残照」にはそのような意味が込められています。

ただ、郭侃自身は無敗だったものの、モンゴル軍自体はエジプトの名将バイバルスに敗れ、アフリカ侵入は果たせませんでした。

一時は地中海まで達するものの、バイバルスに敗れたあとは今のイラン北部にあるタブリーズに後退。

そこを根拠地にモンゴル帝国内のイル=ハン国として支配は続きます。

郭侃自身は本国に呼び戻され、最終的には南宋を滅ぼした知らせを聞いて亡くなるという形でこの作品は終わります。

「残照」個人的感想

それなりに歴史好きな私ですが、郭侃という人物はまったく知りませんでした。

モンゴル帝国の歴史に関してもそれなりの知識しかありませんでした。

それだけに楽しめるかどうか不安だったのですが、田中芳樹先生の読みやすい文章もあってか、夢中になって一気読みすることができました。

郭侃が主人公となっていますが、全体的にはモンゴル帝国という存在が主人公というふうに感じました。

郭侃個人が活躍するシーンももちろんあるのですが、話を動かすのはフラグを中心とするモンゴルの権力者たちなのですね。

あまり歴史上知られていない、モンゴルの支配者たちがどんな生活をしていたのか、どのような行動原理で動いていたのか、どのような戦いぶりだったのか、そのようなことが詳しく書かれていて、個人的には特に興味深く読むことができました。

学校で習うような歴史にはモンゴルがユーラシア大陸の大半を支配したということ以外、あまり知られていませんからね。

フビライ・ハンが日本を攻めた、いわゆる「元寇」についても少し触れられています。

モンゴルが敵を倒すやり方が残虐だったことも。

最終的には無血開城させるほどになるわけですが。

エジプトの名将(後にスルタンとなる)バイバルスについても魅力的に描かれていました。

ただ、あえて言うなら、このバイバルスが活躍するところをもう少し見たかったかなという物足りなさはありました。

戦のシーンはいくつかあるのですが、ほとんどがモンゴル軍の圧勝なので、山場が少ないかなという感じはしました。

あえて言うなら……という程度の不満ですが。

ハードカバーであとがきまで含めて288ページ。

読みやすい文章なのでスラスラと読めます。

当時のモンゴルに関する知識も手に入ります。

おすすめできる一冊です。

ぜひ、手にとって読んでみてください。

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